東京地方裁判所 平成11年(ワ)2048号 判決 2000年5月19日
原告
太田道樹
被告
日立自動車交通株式会社
右代表者代表取締役
佐藤一意
右訴訟代理人弁護士
斉藤義雄
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告が被告に対して労働契約上の権利を有することを確認する。
二 被告は原告に対し、金七二一万五九四〇円並びに内金五〇万円につき平成一〇年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員及び平成一一年二月一七日から原告を復職させるまで毎月二七日限り金四七万九七一〇円を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告に解雇されたとしてその効力を争い、被告に対し、地位確認、未払賃金及び慰謝料の支払を求める事案である。
一 当事者間に争いのない事実等
1 被告はタクシー営業を主たる目的とする株式会社である。
2 原告は平成三年四月、被告と期間の定めのない雇用契約を締結し、以来タクシー乗務員として勤務してきた(以下「本件雇用契約」という)。
3 原告は、平成一〇年五月一五日付けで、就業規則三四条(退職基準)ハ号によるとして自然退職扱いとされ、「通告書」(書証略)には、その理由として、就業規則二九条(休職基準)ロ号及び三〇条(休職期間)の定めによると記載されている(以下「本件退職」という)。
4 本件に関する被告の就業規則の規定は次のとおりである(書証略)。
第二九条(休職基準)
従業員が次の各号の一に該当するときは原則として休職を命ずる。
イ号 許可を得て、公職に就任したとき。
ロ号 業務外の傷病による欠勤が引き続き一ケ月を超えたとき。
ハ号 私事欠勤が引き続き一五日以上にわたったとき。
(以下省略)
第三〇条(休職期間)
休職の期間は次の通りとする。
イ号 前条イ号によるとき。その存在中
ロ号 前条ロ号によるとき。
勤続一年未満 二ケ月
勤続一年以上 五ケ月
ハ号 前条ハ号によるとき。一ケ月
(以下省略)
第三四条(退職基準)
従業員が次の各号の一に該当したときは退職せしめる。
イ号 傷病または老衰のため職務に堪えないため、退職を願い出たとき。
ロ号 定年に達したとき。
ハ号 休職期間を経過し、なお復職できないとき。
ニ号 本人が死亡したとき。
ホ号 その他一身上の都合により退職を願い出たとき。
5 原告の平成九年の平均給与月額は四七万九七一〇円であり、その支給日は毎月二七日である。
二 主たる争点
1 本件退職の効力
(一) 被告の主張
被告は、夜間日勤勤務のブルーラインタクシーの廃止に伴い、平成九年一一月一四日、原告に対し、一一月度勤務から就業規則四四条(1)ニ号B勤務(以下「隔日勤務」という)を命じたところ、原告は、これを拒否し、同月一五日以降無断欠勤をした。そこで、被告は、就業規則二九条に従い原告を休職とし、同規則三〇条ロ号に規定する休職期間五か月を経過した平成一〇年五月一五日付けで就業規則三四条ハ号により原告を退職させたのであり、本件退職は就業規則に従ってなされており有効である。
なお、原告は、本件退職が労働基準法一六条一項違反であると主張するが、原告の疾病は、業務となんら関連のないものであるから、同条項違反には当たらない。
また、原告は、被告との間で原告を夜間日勤の勤務に就かせるとの合意があったと主張するが、そのような合意はない。
(二) 原告の主張
(1) 労働基準法一九条一項違反
本件退職は、原告の意に反したもので、実質は解雇にほかならないところ、右解雇は労働基準法一九条一項に反し無効である。
すなわち、原告は、平成一〇年四月六日から同年五月一一日まで高血圧症の治療のため入院していたのであるが、原告の高血圧症等は、長年にわたるタクシー乗務員としての業務に起因するもので、労働災害というべき疾病であるから、休業する期間及びその後三〇日間の解雇は許されないにもかかわらず、被告は原告を退院のわずか四日後に解雇したのであり、労働基準法一九条一項に違反することは明らかである。
(2) 解雇権の濫用
仮に右(1)が認められないとしても、本件雇用契約を締結した際、原告は、被告との間で原告を夜間日勤の勤務に就かせるとの合意をしたにもかかわらず、被告は、原告の健康上従事することが困難な隔日勤務への変更を強要して原告を休職に追い込み、本件退職に至ったものであるから、本件退職は、実質的な解雇であり、右解雇は解雇権の濫用に当たるから無効である。
2 慰謝料
第三当裁判所の判断
一 認定した事実(当事者間に争いのない事実を含む)
1 原告の入社の経緯及び従事していた業務等(証拠略)
原告は、以前タクシー乗務員として勤務した経験があったが、高血圧症に罹患したこともあって、タクシー乗務員を辞め、その後他の仕事をしていたが、平成三年四月、被告の面接を受けた。原告は、その際、面接を行った被告の大高康男係長(以下「大高係長」という)に対し、当初三か月くらいは隔日勤務、その後は夜間日勤勤務を希望すると述べたが、高血圧症に罹患していることは述べなかった。
なお、原告と被告は、原告が被告に採用された際、雇用契約書(書証略)を作成しているが、右雇用契約書には労働条件として「就業規則に依る」と記載されているだけで、就くべき勤務形態は記載されていない。
原告は、平成三年四月に被告に入社してタクシー乗務員として、隔日勤務に従事した後、平成四年一月ころから夜間日勤勤務(ナイトタクシー)に従事するようになったが、平成五年二月にナイトタクシーが廃止されたのに伴い、約半年間日勤のワゴンタクシーに乗務した後、夜間日勤勤務のブルーラインタクシーに乗務するようになった。
2 被告における就業形態(証拠略)
(一) 被告における乗務員の就業形態は、原告が被告に入社した当時は、隔日勤務、日勤勤務、夜間日勤勤務(ナイトタクシー)、夜間日勤勤務のブルーラインタクシーの四種類であったが、平成五年二月にナイトタクシーは廃止され、平成九年一〇月にブルーラインタクシーも廃止された。
(二) 被告における就業形態のうち、隔日勤務とは、始業開始時刻が午前七時三〇分、終業時刻が翌日の午前二時三〇分まで、五日を一サイクルとする二・二・二制を基本とするもので、被告における通常の勤務形態である。
日勤勤務において乗務する車両は、ワゴンタクシー(ただし、原告が被告に入社した当時、ワゴンタクシーは昼間、夜間と二とおりの日勤勤務があった)、福祉バス、リフト付タクシー、ハイヤー、乗合タクシーがあり、始業時刻、終業時刻は一様でないが、ワゴンタクシーの場合、始業時刻は午後〇時三〇分、終業時刻は同日午後九時三〇分である。
夜間日勤勤務(ナイトタクシー)は、隔日勤務(二労働日分継続勤務)が可能な条件(二四時間の運行が可能)で認可を受けたタクシーを使用して、夜間のみ(一労働日分)勤務する形態である。
それに対し、ブルーラインタクシーは、祝祭日を除く月曜から金曜、所定労働時間八時間など運行条件を限定して認可された車両であり、被告の場合、始業時刻が午後五時四五分、終業時刻が翌日の午前三時一五分であった。また、認可台数が限られていたことや、右のような運行条件から、ブルーラインタクシーの乗務を希望する乗務員は多かった。
(三) ブルーラインタクシーは、昭和六三年ころ、金曜の夜間の需要増に対応する措置として導入されたが、間もなく需要の増加する一二月のみと変更され、平成二年ころから、通年で運行できるようになった。しかし、その後、平成八年七月三〇日付けの関東運輸局東京陸運支局長名の「タクシー事業の輸送効率向上への対応について」と題する通知(書証略)により、平成九年一〇月三一日でブルーラインタクシーは廃止されることになった。
一方、ナイトタクシーは、認可条件としては二四時間運行可能な車両を夜間のみ運行させるというものであったので、非効率であること、ブルーラインタクシー制の下では認可条件違反の可能性もあることから、被告は、原告が入社した当時には、ナイトタクシーを廃止するために徐々に減らしており、平成五年二月にはすべて廃止した。しかし、被告は、平成九年一〇月三一日にブルーラインタクシーが廃止された後も、休車が出た場合には臨時的な措置としてワゴンタクシーの乗務員を普通車に乗務させて夜間日勤を行わせたことはあり、また、平成一〇年六月ころには、輸送効率向上車両の増車があって、一時的に乗務員不足が生じたため、昼間、夜間の各日勤の車両六台を平成一一年三月一五日まで運行させたことがあった。
3 本件退職に至る経緯(証拠略)
(一) 被告は、ブルーラインタクシーの廃止が決まった平成九年七月三〇日当時、ブルーラインタクシーとして運行させていた一四台の車両を車検切れになると同時に順次廃止することに決め、被告の営業部長である矢萩嘉明(以下「矢萩部長」という)は、同年八月から原告を含む一四名のブルーラインタクシーの乗務員に対し、毎月一回行われる明番会(乗務員に対し、研修、指導、指示、連絡等を行う)でブルーラインタクシー廃止の説明をするとともに、勤務形態の変更に同意を求めた。その結果、一名は個人タクシー営業を行うことになり、二名は夜間日勤のワゴンタクシーに乗務することになり、一名は車検切れと同時に退社し、残り九名は車検切れと同時に隔日勤務に就くことになった。
(二) 矢萩部長は、原告に対しても、明番会を通じて、また直接に、ブルーラインタクシーが廃止となることを説明した上、その廃止後は隔日勤務に就くよう求めた。しかし、原告は、矢萩部長の前任者であった島田孝彦部長(以下「島田部長」という)との約束があるから、夜間日勤の車両を用意しろと述べて、隔日勤務に就くことを拒否した。そこで、矢萩部長は、原告との話し合いの中で夜間日勤のワゴンタクシーに乗務することも提案してみたが、原告は、ワゴンタクシーでは売上が少ないとして、右提案も拒否した。
ところで、島田部長は、原告の採用面接に立ち会っていなかったが、被告が、平成五年二月にナイトタクシーを廃止し、ナイトタクシーの乗務員に対し隔日勤務に就くよう求めた際も、原告がこれを頑強に拒否したため、原告に対し、ブルーラインタクシーに近く欠員が出るから、そのときは原告をブルーラインタクシーに乗務させるので、それまでは日勤のワゴンタクシーに乗務するよう話し、原告がこれに同意したという経緯があった。
(三) 原告は、ブルーラインタクシーが廃止された平成九年一〇月三一日になっても隔日勤務に就くことに同意せず、その後、リンパ腺の切除手術を受けるために有給休暇を取得し、平成九年一一月四日から出社しなくなった。被告は、平成九年一一月一四日、原告に対し隔日勤務を命じる旨の文書(書証略)を郵送し、原告は、同月二〇日に右文書を受領したが、同日、隔日勤務には就かないと回答した。原告は、平成一〇年一月、給与を受け取るために被告に出社したが、勤務には就かないままであった。そこで、被告は、原告に勤務する意思があるかどうか話し合いたいので、出社するよう求めた平成一〇年二月一四日付け文書(書証略)を原告に送付した。原告は、同月一八日、右文書を受領したので、これに応じて同月二〇日、被告に出社したが、矢萩部長に対し、隔日勤務はできないと再度述べたにとどまり、実質的な話し合いは行われなかった。その後、原告は、平成九年三月二七日、同月三〇日、被告と話し合うため、あるいは健康診断表を受け取るためといった理由で、被告に出社したことがあったが、勤務には就かなかった。
(四) 被告は、原告が隔日勤務に就こうとせず、出社もしないので、診断書又は休職願い等を提出しなければ平成九年一一月一五日から無断欠勤として扱い就業規則に基づき処理する旨記載した同年三月二八日付けの文書(書証略)を原告に送付した。原告は、同月三〇日、右文書を受領した後、平成一〇年四月六日、柳橋病院に入院し、同月二二日、被告に対し、「病名 糖尿病、肥満」と記載された診断書(書証略)を提出した。その後、原告は、平成一〇年五月一一日、柳橋病院を退院した。
そして、被告は、原告に対し、平成一〇年五月一五日付けをもって就業規則三四条(退職基準)ハ号により、自然退職扱いとする旨記載した同月一八日付文書(書証略)を送付した。
二 本件退職の効力について
1 本件雇用契約について
(一) 原告は、本件雇用契約は、勤務形態を夜間日勤勤務と限定する契約であったと主張し、その本人尋問においても右主張に沿う供述をする。
原告が、採用面接を行った大高係長に対し、夜間日勤勤務の希望を述べたことは前記一1のとおりである。しかし、原告は、面接を受けた際、高血圧症に罹患しているためという理由までは述べておらず(前記一1)、また、当時、被告は、ブルーラインタクシーは運行させていたものの、ナイトタクシーは徐々に廃止していく方針であった(前記一2(一)、(三))。このように、被告において夜間日勤で運行させる車両が全体として減少傾向にある状況で、原告が夜間日勤勤務を希望したのが健康上の理由によることを知らなかった被告が勤務形態を夜間日勤勤務と限定して原告を採用することは不自然である。むしろ、本件雇用契約書(書証略)には勤務形態を限定するような記載はなく、労働条件は就業規則に依ると記載されているだけであること(前記一1)、大高係長には当時乗務員の採用権限はなかったこと(書証略)からすれば、原告が勤務形態について希望を述べたとしても、それは原告の希望にとどまり、本件雇用契約は、勤務形態を限定するものではなかったというべきである。
(二) また、原告は、島田部長との間で、原告の勤務を夜間日勤とする旨の合意があったと主張する。
ナイトタクシーが廃止された平成五年二月、隔日勤務に就くことを拒否した原告と島田部長との間で話し合いが行われ、欠員が出れば原告をブルーラインタクシーに乗務させることを合意したことは前記一3(二)のとおりである。
しかし、それは、ナイトタクシーが廃止される際も原告が隔日勤務を拒否し、夜間日勤勤務を強く希望したこと(前記一3(二))から、島田部長が、事実上原告の希望を聞き入れ、原告をブルーラインタクシーに乗務させることにしたにすぎず、原告の勤務形態を限定していなかった本件雇用契約の内容を勤務形態を限定するものに変更する趣旨であったと解することはできず、また、右合意に、ブルーラインタクシーが廃止された後も、原告を夜間日勤勤務に就かせることまで含まれていたと解することは到底できない。
2 本件退職の効力について
原告は、ブルーラインタクシー廃止後、平成九年一一月一四日付けで被告から隔日勤務を命じられたあと、給与の受取り等に行ったり、被告からの呼出しに応じたほかは、被告に出社せず、隔日勤務に従事しなかった。また、矢萩部長が文書を送付したり、原告を呼び出したりした際、原告は隔日勤務には就かないとの意思を明確に示していた(前記一3(三))。右の被告の原告に対する隔日勤務に就くことの命令は、ブルーラインタクシーの廃止に伴うものであり(書証略)、その必要性は極めて高く、一方、原告は、高血圧症等に罹患していたとはいえ、隔日勤務に就くことが不可能な症状であったことを認めるに足りる証拠はないこと(原告は、この点、平成一〇年五月八日、柳橋病院の医師が被告に対し、原告が隔日勤務に就くのは困難であると電話で伝えたと主張し、陳述書(書証略)にも同趣旨の記載がある。しかし、原告の勤務形態に重要な影響を与えるような事柄であるにもかかわらず、平成一〇年四月二二日付け、同年一一月九日付けの各診断書(書証略)にそのような記載がないのは不自然であり、そのことからすると、右陳述書の記載は採用できず、柳橋病院の医師が被告に対し、原告の主張する内容の電話をしたことを認めることはできない)からすると、右命令は有効であるということができるから、原告が隔日勤務を拒否したことに正当な理由はなく、被告に出社しなかったことは無断欠勤と評価されてもやむを得ないものであったというべきである。
なお、原告は、その本人尋問において、平成一〇年一月ころ、被告に対し、隔日勤務の勤務予定表等を交付して欲しいと述べたことがあると供述し、陳述書(書証略)にも同趣旨の記載がある。しかし、原告は、平成九年一一月ころまで、一貫して隔日勤務を拒否し、平成一〇年二月にも隔日勤務を拒否していることからすると、隔日勤務の勤務予定表の交付を求めたというのは不自然である。また、仮にそのような事実があったとしても、隔日勤務に就くことに同意して予定表を求めたのでないことは明らかである。
ところで、原告は、平成九年一一月四日から有給休暇を取っており、この間は無断欠勤とはいえないところ、原告は、同月一九日までの届出をし、後に口頭で二〇日まで延長したと主張し、被告は同月一四日までであったと主張するところ、被告の原告に対する隔日勤務の命令が同月一四日付けで出されていること(前記一3(三))からすると、有給休暇は平成九年一一月一四日までであったというべきである。
そうすると、原告の無断欠勤が一か月継続した後、就業規則二九条に従って原告を休職扱いとし、就業規則三〇条ロ号に規定する五か月を経過した平成一〇年五月一五日に就業規則三四条ハ号により原告を自然退職扱いとした本件退職は有効であるというべきである(なお、仮に、原告の有給休暇が平成九年一一月一九日ないし二〇日までであったとすると、本件退職は就業規則上の期間を充足しないことになるが、仮にそうであったとしても、直ちに違法であると解すべきでなく、本件において、原告は、被告に対し、平成一〇年五月二八日付け文書(書証略)でも、隔日勤務に就くことを拒否する旨記載していることからすると、同月一五日以降も原告が隔日勤務に就かないことは明らかであったということができるから、遅くとも平成一〇年五月二〇日には、就業規則所定の期間を充たし、自然退職扱いの効力が発生したものというべきであり、本件退職の効力発生時期は平成一〇年五月二〇日となるものの、本件退職自体は有効であるというべきである)。
3 原告の主張について
(一) 労働基準法一九条一項について
原告は、本件退職は実質的な解雇であり、労働基準法一九条一項に反すると主張する。
平成一〇年一一月九日付け診断書(書証略)によれば、原告が平成一〇年四月六日から五月一一日まで柳橋病院に入院して治療を受けた際の病名は、肥満、糖尿病、高血圧症、高脂血症、変形性膝関節症であることが認められ、右診断書には、医師の所見として、生活習慣と密接な関係がある旨記載されているが、右各疾病が業務上のものであることを認めるに足りる証拠はない(原告の陳述書(書証略)には、高血圧症等はタクシー乗務員の職業病である旨の記載があるが、医学的な根拠は示されておらず、右疾病等が業務上のものであることを認める根拠とはならない)。
したがって、本件退職が解雇であるかどうかはともかく、仮に解雇であったとしても労働基準法一九条一項に反するものでないことは明らかであるから、原告の主張は理由がない。
(二) 解雇権の濫用について
原告は、本件退職は実質的な解雇であり、かつ解雇権の濫用に当たると主張する。
原告は、既に述べたように被告の隔日勤務の命令に従わず、無断欠勤を続けたのであり、その期間は平成九年一一月一五日から本件退職まで六か月に及ぶものであったこと、被告の就業規則三六条、八八条によれば、一四日以上無断欠勤し、督促しても出勤しないことが解雇事由に該当することは明白であり、本件退職が解雇であるかどうかはともかく、仮に解雇であったとしても、解雇権の濫用を認めることはできないから、原告の主張は理由がない。
4 右によれば、本件退職は有効であるから、地位確認及び未払賃金の支払を求める原告の請求は理由がない。
三 慰謝料
すでに述べたように本件退職は有効であるから、その無効を前提とする原告の被告に対する慰謝料の支払請求は理由がない。
四 以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松井千鶴子)